李良枝

 李良枝『刻』(2)

「刻」という題には、しかし、「秒」や「時間」とは違ったニュアンスがある。「刻」という小説の中では、一秒一秒が主人公にとって、物理的に刻まれてゆくものなのである。名詞にも動詞にもなる「刻」という漢字は、主人公が島国から渡ってきたアジア大陸の…

 イ・ヨンスク『異邦の記憶』

異邦の記憶―故郷・国家・自由作者: イヨンスク出版社/メーカー: 晶文社発売日: 2007/10/01メディア: 単行本 クリック: 10回この商品を含むブログ (4件) を見る「李良枝 ことばへの鎮魂」より。 由煕は日本と韓国という二枚の鏡にはさまれ、日本の鏡をみれば…

 李良枝『刻』(7)

……誰が私を語るのか、私の代わりとなって……お前が嘘をついている、と何のこだまが答えるのか……。呟き始めた詩の一節がとぎれた。……私は在るのか。在ったのか、眠っているのか。醒めているのか……。 女は目をつむる。 [……] ……けれども世界は厳然としています。…

 李良枝『刻』(6)

始業のチャイムが鳴り始めた。 教室に戻ると、担任の教師がすぐに入って来た。出席の点呼が終わると、全員が起立する。黒板の上のスピーカーから「愛国歌」が流れ始める。全員、胸に手を当て、歌を口ずさむ。 毎朝、こうして「愛国歌」を聴いているのに、歌…

 李良枝『刻』(5)

たばこを取って火をつけた。けむりは唇の隙間からこぼれ、化粧をし化粧をされた私に向かって、吹きつけられる。 そうしている間も、カチッ、カチッ、カチッ、と音をたてて、秒針は動き続けていた。その音以外は何の物音も聞こえない。窓ぎわの方を見た。目覚…

 李良枝『刻』(4)

とりわけ言葉というものは、それを使用する人間の存在のすべてと深い関わりがある、言い換えるなら感受性のすべての産物であると同時に、感受性のすべてを支配し拘束する、まるで生きている生命体のようなものですから、日常的な暮らしぶりはただちに言語生…

 李良枝『刻』(3)

「私にとっての母国と日本」より。 まず、大義名分として私には、一日も早く韓国人にならなくてはならず、自分の身体に染みついている日本的なあらゆるものを清算して、韓国を理解し韓国語を自在に操れるようにならなければならないという、義務がありました…

 李良枝『刻』(1)

刻 (講談社文芸文庫)作者: 李良枝出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/05/10メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログ (3件) を見るリービ英雄「李良枝という奇跡」より。 言語と言語、ないしは文化と文化の間に人の動きが限りなく複雑になった二…

 李良枝「由熙」

李良枝全集作者: 李良枝,Lee Yangji出版社/メーカー: 講談社発売日: 1993/05メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (2件) を見る 우리나라(母国)って書けない。今度の試験が、こんな偽善の最後だし、最後にしなくてはいけないと思う。中世国語…