折口信夫

 松浦寿輝『増補折口信夫論』(4)

極めつきの「もどき」を演じている言葉を耳元で囁かれるとき、つい人はふらふらと魅入られるように、それを再度、みずからの身体で、具体的にはその「口」で、つまりは従順な「口移し」で、今ひとたび「もどき」直してみたいと欲望せずにはいられない。こう…

 松浦寿輝『増補折口信夫論』(3)

折口信夫の言語実践とともに立ち上がってくる「古代」的な聴覚空間とは、純粋状態の音響だけから成り立っている言語の織物といった非在のトポスをめぐる激甚なファンタスムのことであるかもしれぬ。表意文字で構成された概念はすべてそこから排除され、あら…

 松浦寿輝『増補折口信夫論』(2)

言語の「間接性」への苛立ちが執拗に語られているという点への興味を除けば、さしたる取り柄のない若書きの言語論にやや詳しく触れたのは、「遠近法」の崩壊した折口の言語がわれわれの耳に「強制」してくるものとは、まさしくここで語られているような「斜…

 松浦寿輝『増補折口信夫論』(1)

増補 折口信夫論 (ちくま学芸文庫)作者: 松浦寿輝出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2008/06/10メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (9件) を見る 折口の言葉は、概念的な意味作用の回路を経ることなしに不意に間近なところから迫り上がり、ま…

 折口信夫『歌の話・歌の円寂する時』

歌の話・歌の円寂する時 他一篇 (岩波文庫)作者: 折口信夫出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2009/10/16メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 5回この商品を含むブログ (9件) を見る 私は歩きながら、瞬間歌の行きついた涅槃那の姿を見た。永い未来を、遥かに…

 富岡多惠子『釋迢空ノート』(1)

釋迢空ノート (岩波現代文庫)作者: 富岡多惠子出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2006/07/14メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 9回この商品を含むブログ (14件) を見る 「歌」(短歌)は日本人につきまとっている怨霊――このことを釋迢空は知覚していた。これ…

 安藤礼二『神々の闘争 折口信夫論』(3)

折口は篤胤によってキリスト教化された、この「神道」をさらに純粋に一神教化したのである。折口は、篤胤のなかでは相対立していた「造化神」と「幽冥神」という彼岸の二元論に関して、死後の審判を司る「大国主神」という概念を捨て去り、「造化神」のみを…

 『釋迢空ノート』(3)

迢空の命日は九月三日である。・・・・・・九月二日の前夜祭は夕方六時よりはじまり、三日は朝の十時にはじまった。気多神社の神主さんが鎮魂の笛を吹く。日本酒、ウイスキー、ビールがそれぞれコップにつがれて、祭壇におかれる。祭壇の上方右手に「折口信…

 『釋迢空ノート』(2)

茂吉の迢空の歌への不満は、「あれほどに記紀萬葉をはじめ、律文要素のある書物に没頭してゐた」にもかかわらず、「其影響が単に、知識或は形式上」の遊戯として表れてゐても、内的に具体化されてゐない」と評した迢空の橘守部論の一節がそのままあてはまる…

 木村純二『折口信夫―いきどほる心』

折口信夫――いきどほる心 (再発見 日本の哲学)作者: 木村純二出版社/メーカー: 講談社発売日: 2008/05/27メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 7回この商品を含むブログ (9件) を見る 宣長は、死という個々の人間が抱える問題に関して、ひとは誰も死後に「甚…

 『釋迢空ノート』(5)

小野十三郎の迢空への反論に、「外の世界を清掃する義務をもつ」があった。迢空は、自分は短歌に見切りをつけ、未練で歌をつくっているがこれからの若いひとはごうすとの徘徊する短歌世界の「外」で詩を書いてくれといったのだった。小野ははじめから「外」…

 『釋迢空ノート』(4)

迢空が考える、或いは理想とする「師弟」とはナマナカな関係ではない。「師弟というものはそこ(同性愛)までゆかないと、完全ではないのだ。単に師匠の学説をうけつぐというのでは、功利的なことになってしまう」という人である。「師匠の学説をうけつぐ」に…

 安藤礼二『神々の闘争 折口信夫論』(2)

折口が「言語情調論」で絶えず主張しているのは、言語に直接性を回復させることである。言語を、それ自身としてとらえること。言語を間接的な伝達ではなく、直接的な生産としてとらえること。新たな意味を創造するためには、主−客に分離される以前の、言語の…

 安藤礼二『神々の闘争 折口信夫論』(1)

神々の闘争 折口信夫論作者: 安藤礼二出版社/メーカー: 講談社発売日: 2004/12/21メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 44回この商品を含むブログ (31件) を見る 折口にとって言語の「象徴性」があらわになるのは、言語が単なる意味の伝達を離れて、直接的に…