アガンベン.G『例外状態』(2)

本研究では、「例外状態」(stato di eccezione)という語句を、それについての定義の提唱がなされる法的諸現象の一貫した総体を指すための専門用語として使用するだろう。……もし用語法が思考のまさに詩的な契機であるとするならば、用語の選択はけっして中立でありえない。この意味で、「例外状態」という用語の選択は、本研究において探究しようとしている現象の本性についての、そしてもっともふさわしい論理についての、ひとつの立場の選択を示している。「戒厳状態」や「戦時特別法」という概念が、歴史的にみた場合に決定的であった戦争状態。そしていまだに続いている戦争状態とのつながりを表現しているとすれば、しかしながら、それらの概念は、この戦争という現象に固有の構造を定義するのには不十分であることが明らかになるのである。ひいては、これまたなにがしか場違いな感をぬぐえない「政治的」とか「擬制的」といった言い方をせざるをえなくなるのだ。例外状態というのは、なにか特殊な法(戦時法のような)ではないのであって、法秩序それ自体を停止させるものであるかぎりで、法秩序の閾あるいは限界概念を定義したものなのである。(p13-p14