アガンベン.G『例外状態』(3)

 しばしば例外状態を特徴づける言葉として用いられる「全権」(pleins pouvoirs)という表現は、統治の諸権限の拡張に、そしてとりわけ法律-の-力をもった政令を布告する権限を執行部に付与することに関連している。この表現は、近代公法の用語体系にとっての本来の工房であった教会法において練りあげられたplenitudo porestatis〔権力の十全さ〕の概念に由来するものである。ここで前提となるのは、例外状態というのは、複数の権力(立法権力、執行権力など)のあいだの区別がいまだ生み出されていない充溢した始原状態への回帰を含意しているということである。のちに見るように、例外状態は、むしろ空虚な状態を、すなわち法の空白を構成しているのであって、権力の原初的な無区別と十全さは、自然状態についての考えと相同的な法学的神話素とみなされるべきである(そしてこの神話素に訴えようとしたのがまさにシュミットであったことは偶然ではないのだ)。いずれにせよ、「全権」という用語は、例外状態が続くあいだ執行権力がとる行動のさまざまな可能的様態のうちのひとつを定義するものではあるが、例外状態とぴったり合致するものではない。(p16-p17