アガンベン.G『例外状態』(7)

『政治神学』においては、例外状態を法秩序のうちに書きこむ操作をしているのは、法の二つの基本的要素のあいだの区別、すなわち規範(Norm)と決定(Entscheidung,Dezision)とのあいだの区別でもある。例外状態は、規範を停止することで、「決定という特殊に法律学的な形態要素を絶対の純粋さにおいて開示する(offenbart)」(Schmit,1922,p.19)ここにいたって、なぜ『政治神学』においては例外状態の理論が主権の学説として提示されうるのか、その理由が理解される。例外状態に関して決定することのできる主権者は、例外状態を法秩序に繋留することを保証するのである。しかしながら、ここでは決定は規範の無化そのものにかかわっているかぎりで、すなわち、例外状態というのは外でも内でもないひとつの空間(規範の無化と停止に対応する空間)を包含し捕捉することであるかぎりで、「主権者は、通常の状態において効力を発揮している法秩序の外にある(steht ausserhalb)」が、しかしまた、憲法が全体として停止されうるかいなかの責任を負っているために、その秩序に属している(gehört)のである(ibid,,p.13)。

法秩序の外にありしかしまた法秩序に属している。これこそは例外状態の位相幾何学的な構造である。そして、例外に関して決定する主権者は、本当を言えば、論理的にみて、自らの存在においてこの構造によって定義されているからこそ、主権者自身もまた、脱却所属という撞着語法によって定義されうるのである。(p69-p71