アガンベン.G『例外状態』(6)

 このようにひとつの外部を法のうちに書きこむ操作をしているのは、『独裁』においては、委任独裁にとっての法規範と法実現(Rechtsverwirklichung)規範とのあいだの区別であり、主権独裁にとっての自らの憲法へと構成する権力と憲法へと構成された権力とのあいだの区別である。実際にも、委任独裁は、「憲法を具体的に停止することによって、憲法の存立を防衛しようとする」(Schmit,1921,p.136)ものであるかぎりにおいて、究極的には「法の適用を可能にする」(ibid.)事態を創り出すという機能を有している。委任独裁のうちで憲法はその適用に関しては停止されうるが、「このことによって効力を失うことはない。というのも、停止はもっぱら具体的な例外を意味しているからにすぎないからである」(ibid.,p.137)。理論の次元においては、委任独裁はかくして規範と規範の実現を差配する実践技術的な諸規則とのあいだの区別に全面的に包摂されてしまうのである。

主権独裁の状況はそれとは異なっている。主権独裁は、現行の憲法を「それのなかで観想されており、ひいてはそれ自体が憲法的なものであるひとつの法にもとづいて」停止することに自らを限定してはおらず、むしろ新しい憲法を課することが可能になるような事態を創り出すことを狙っている。例外状態を法秩序の繋留することを可能にする操作をしているのは、この場合には、自らを憲法へと構成する権力と憲法へと構成された権力とのあいだの区別である。しかしまた、自らを憲法へと構成する権力は「純粋かつ単純な力の問題」ではない。そうではなくて、それはむしろ、「憲法によって構成されたものでないにもかかわらず、あらゆる現行憲法とのあいだで、それを根拠づける権力として立ち現われるような連関、(…)かりに現行憲法がこの権力を否定したとしても、それによって否定されることはありえないような連関を有する権力」(ibid.)なのである。法律学的には「無定形」(formlos)でありながらも、この権力は政治的に決定的なあらゆる行動のうちに書きこまれた「最小限度の憲法」(ibid.,p.145)を代表しているのであって、だからこそ主権独裁にも例外状態と法秩序とのあいだの関係を保証することができるのである。(p67-p69