大宮勘一郎『ベンヤミンの通行路』(1)

ベンヤミンの通行路

ベンヤミンの通行路

充実した体験をもたらすのではなくむしろ穴だらけの旅行、穴ばかりをもたらす旅行、それを敢行することで外界あるいは旅行者内部における欠落や間隙を探りあて、綻びを押し広げてしまうような、多孔質の旅行というのもあるのではないか。そこにおいては、遠く隔たったものが、その遠さと隔たりのままに接近するという、旅行がもたらすと一般的に考えられる経験にも旅行者は確かに捕らえられるのだが、のみならず、まさにその遠さが迫ってくるがゆえに、本来近く親しいはずであったもののほうまでもが逆に旅行者の手をすり抜けて、旅行もろともに遠方へと拡散してしまうのではないか。つまりこのような場合旅行とは、語の真生な用法でアウラ的と、あるいはさらに、アウラそのものとさえ言えるのではないか。(p7)