川崎修『アレント』(2)

アレントにとって、全体主義とは、人種主義やソヴィエト共産主義といった教義の内容の問題なのではなく、思考様式や、運動、政治組織の様式の問題なのである。したがって、「アメリカ」であろうと「民主主義」であろうと、全体主義イデオロギーとして利用することは可能だという。すなわちそれらを、議論を超えた当然受容すべき政治的「大義」にしてしまい、それらの名の下に、自由な議論や批判が封殺されてしまうようなとき、「アメリカ」であろうと「民主主義」であろうと全体主義的イデオロギーに堕落してしまい、それらをイデオロギーとした運動や政治組織が形成されうるということを、彼女は説得的に強調している。そして、「エクス・コミュニスト」たちは、新しい「世界観」の下に、相変わらず全体主義的思考方法を続けているというのである。(p221-p222)