北岡誠司『バフチン』(1)

バフチン―対話とカーニヴァル (現代思想の冒険者たち)

バフチン―対話とカーニヴァル (現代思想の冒険者たち)

『小説の時空間』は、「時空間」(クロノトポス)なる用語・概念にかなり詳細な定義を与えている。「時空間」とは「文学が、歴史のうちに実在する時間・空間を自らのものとして」「芸術化してきた、時間的関係と空間的関係との本質的な連関」だ、と定めている。「時空間」が、時間と空間を別々に考えるが、便宜上、簡略化してよぶための用語なのではなく、あくまで「時間的関係と空間的関係との本質的な連関」、双方の相互連関を指す、というのである。バフチンはこの点をさらに敷衍して、文学では一方で「時間が濃縮されて具象化され、芸術的に可視的になる」、つまり時間が空間化する。他方「空間は集約されて、時の流れ・話の筋の展開・歴史の動きのなかに組み込まれる」、つまり空間が時間の中にはいりこむ。いいかえると「時間を示す指標」たとえば痕跡が「空間のなかで自らを開示する一方、空間が時間によって意味づけられ、計測される」という。「このように時間系列と空間系列が交差し、双方の指標が融合する」。これが「芸術的な時空間」の特性だ、とバフチンはいう。(p116-p117)