バウマン.Z『アイデンティティ』(8)

近代の歴史は、人間が思いのままに変更し、人間のニーズや欲望にあったものに「改良」できるものの限界をさらに押し広げる、持続的な取り組みの歴史でした(そしてそれは今日も変わりません)。それは、無効にされ、完全に放棄されるまでの究極の限界に挑むツールやノウハウを求め続ける歴史でもありました。私たちは、最近まで人間が従わねばならない不変のシンボルであった、人間の遺伝子構造の操作という希望さえ叶えるにいたっています。身体の大きさや形態や性がアイデンティティのもっとも頑強な側面であっても、いつまでも、すべてを包含しようとする近代の流れに抵抗する例外にとどまっていたなら、それこそ不可解なことでしょう。(p1299-p130)