テッサ・モーリス・スズキ『過去は死なない』(1)

 

過去は死なない――メディア・記憶・歴史 (岩波現代文庫)

過去は死なない――メディア・記憶・歴史 (岩波現代文庫)

 

 わたしたちが思いえがく歴史は、たくさんの源泉からの寄せ集めである。その源泉は、歴史文書の叙述だけではない。親から聞かされたこと、写真、歴史小説、ニュース映像、漫画、そして(このところ伸長著しい)インターネットなどの電子メディア。そうした無数の断片が入った万華鏡をくるくるまわしながら、わたしたちは自分の生きているこの世界の起源と本質とを説明してくれる理解のパターンをつくっては、またつくりなおす。そうしながら、その世界で自分の占める位置を規定しては、また規定している。……本書は歴史との邂逅のさまざまなかたちから、そのいくつかを探り、異なる歴史表現メディアが過去の理解にどのような影響を与えるのかを考える試みである。この草稿を書いているあいだにもわたしを駆りたててやまないのは、わたしたちと過去との関係のひとつの危機――歴史の危機――が生じている、という実感である。(p3-p4)