アガンベン.G『事物のしるし』(5)

第一章「パラダイムとは何か」。

一九二四年から一九二九年にかけて、アビ・ヴァールブルクは『ムネモシュネ』と呼ばれることになる「図像集」に取り組んでいた。知られているように、そこで扱われていたのは複数のパネルの総体であり、パネルのうえには、一連の雑多なイメージ(芸術作品や手稿の複製、新聞雑誌から切り抜かれたり彼自身が撮ったりした写真など)が固定されている。それらイメージは、ヴァールブルクが〈情念定型〉(Pathosformel)という語で定義したただ一つのテーマにほぼ準拠している。パネルの四六番を見てみよう。そこで取り上げられているのは、「ニュンフ」という〈情念定型〉、つまりトルナブオーニ礼拝堂にあるギルランダイオのフレスコ画に登場するような動きをしている女性の形象である。……明らかに間違ったこのパネルの読み方は、イコノグラフィーのレパートリーといったものを見いだすことだろう。……だが、もう少し注意深くパネルを読むなら、どのイメージもオリジナルではなく、またどのイメージもたんなるコピーや反復でないことがわかる。……ヴァールブルクの〈情念定型〉もまた、原型と現象、一回性と反復のハイブリッドなのである。どの写真もオリジナルであり、どのイメージもアルケーを構成し、その意味で「アルカイック」である。けれども、ニュンフそれ自身は古代風(アルカイック)でも現代風でもなく、通時態とも共時態とも、一とも多とも決定しえない。しかし、このことが意味しているのは、ニュンフはパラダイムであって、単独のニュンフはその範例だということである。あるいは、もっと正確には、プラトンのディアレクティケーの構成上の両義性にしたがうなら、ニュンフとは単独のイメージのパラダイムであり、単独のイメージはニュンフのパラダイムである。(p43-p45)