中村春作他編『続「訓読」論』(4)

齋藤希史「読誦のことば―雅言としての訓読」より。

文字の言語化は、日常言語によってなされたのではなく、こうした儀礼的ないし演技的性質をもつ音声言語との対応によってなされたと思われる。戦国期に見られる文字の多様な地域性もまた、それぞれの地域で話されている日常言語が影響したよりは、諸国の宮廷を中心に用いられていた儀礼言語によってもたらされたものではないだろうか。金文にせよ簡牘にせよ、文字が諸国に伝播したのは、儀礼と統治に伴ってであって、日常の対面コミュニケーションのためではなかった。文字と言語の関係を考えるのなら、まず文字が用いられた場における音声がいかなるものであったかを第一とすべきだろう。(p30)