松浦寿輝『増補折口信夫論』(3)

折口信夫の言語実践とともに立ち上がってくる「古代」的な聴覚空間とは、純粋状態の音響だけから成り立っている言語の織物といった非在のトポスをめぐる激甚なファンタスムのことであるかもしれぬ。表意文字で構成された概念はすべてそこから排除され、あらゆる記号が音響に還元されていっせいにざわめき立っているので、そこではあらゆる方角に向けての無限の「斜聴」が可能となる、そんなユートピア的空間をめぐる夢想。(pp47)