折口信夫『歌の話・歌の円寂する時』

歌の話・歌の円寂する時 他一篇 (岩波文庫)

歌の話・歌の円寂する時 他一篇 (岩波文庫)

私は歩きながら、瞬間歌の行きついた涅槃那の姿を見た。永い未来を、遥かに予ねて言おうとするのは、知れきった必滅を説く事である。唯近い将来に、歌がどこうとして居るか、それが言うて見たい。まず歌壇の人たちの中で、憚りなく言うてよいことは、歌はこの上伸びようがないということである。更に、も少し臆面ない私見を申しあげれば、歌は既に滅びかけて居ると言う事である。(p169-p170)