谷昇『後鳥羽院政の展開と儀礼』

後鳥羽院政の展開と儀礼

後鳥羽院政の展開と儀礼

著者本人からいただきまして、先日拝読しました。

本書の著者である谷昇さんは、僕がマスターの頃からお世話になっている方でして、先日偶然にお会いした折に、本書を謹呈して下さりました。

また本人は、公立高校の教員を定年退職した後に、日本史の研究を志した方で、お会いする度に、頭が下がるような気持ちになります。高校で教えていた教科は化学とのことですから、なおさらです。

本書の細かい内容というのは、僕の勉強不足もあり、上手く説明は出来ません。

そのなけなしの知識からまとめるならば、

今までは鎌倉幕府を中心とする東国武家政権の方が「動的」なダイナミズムの中で捉えられてきたのに対して、京都の公家政権をめぐる研究動向は、政治史的にもあまり重きをなされていなかったことを本書では問題提起として述べています。

その上で、後鳥羽上皇が在位していた時期の朝廷の公事・儀礼に焦点を絞ることで、当時の公家政権の動向を未公刊史料も扱いながら、その「動的」な性格を実証面で明らかにした研究こそ本書だと言えましょう。

後鳥羽上皇という存在は、中世文学研究では芸能や文学の問題からアプローチはされてきて、その蓄積はきわめて重厚ですが、その成果も取り入れているのは本書の興味深い点でありました。

特に、第三章では、大嘗会で行われた和歌には、地名が必ず盛り込まれていることに着目し、朝廷における在地掌握に関わる政治的な儀礼であったという指摘は、僕の今後の研究に参考になる論点でした。

著者の益々のご活躍を祈念し、この場を借りて御礼を申し上げる次第です。