平岡隆二『南蛮系宇宙論の原典的研究』

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図書館から借りて読了しました。平岡さんの研究射程の広さと緻密な文献考証から積み上げていく研究手法に、読了した後に圧倒されるばかりでした。

また本書の主題は、「江戸時代」を通した、思想史的・宗教史とも密接に関わっている問題でもあることに気付かされました。

本書の中で、最も興味深い論点は、第一章でイエズス会士の宣教師たちが、日本布教における戦略として、西洋の宇宙論を「霊的武器」として積極的に利用していく動向について、ラテン語文献を丹念に分析しており、平岡さん自身の研究水準の高さを伺わせるもので、圧倒された箇所でした。

また、本書の第四・五・六章は、『二儀略説』・『乾坤弁説』・『南蛮運気論』の書写系統を明らかにしようとしたものです。従来の江戸時代に関するキリスト教との関係をめぐる記述では、「キリシタン禁教」という先入観ありきで語っていたことは、否めません。しかし、先述した各章を拝読すると、むしろ、南蛮系の宇宙論の書物自体が、江戸時代においては、入念に研究され、書写され、流布していたという論点は、かなり画期的な指摘だと言わざるを得ません。

思想史の分野では、『天経或問』がもたらした「衝撃」という文脈から、儒学知識人や、国学系知識人、あるいは仏教者などに与えた波紋については、論じられることがあっても、その「伏流水」として存在していた南蛮系宇宙論の書物の存在は、ほとんど着目されてきませんでした。その意味でも、本書が切り開いた射程は、当該期にかけた多様な研究分野にも、「応用」できる可能性があり、非常に意義深い研究だと感じた次第です。

知識もない部分もありますので、本書を詳細に紹介することは出来ませんでしたが、平岡さんの研究には、僕も注目していきたいと思います。雑感めいた書評ではありますが、この場を借りて、平岡さんには御礼を申し上げる次第です。