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 北岡誠司『バフチン』(3)

バフチンは結論として、ドストエフスキーの世界は、ドストエフスキー論の先達B・エンゲルカリトが時間を基軸にして想定したような、ヘーゲル風の「単一の精神が生成・発展する諸段階」から成る世界ではない。「多種多様な精神が共存し相互作用しあう」世界であり、「作中人物たちの[ミクロの]世界も、小説の中の諸領域として、階層序列的には相異なる価値づけをあたえられているにもかかわらず、小説の構造[マクロの世界]そのものの中では、生成の諸段階として経起するのではなく、(ダンテの諸世界と同じく)共存しあいつつ、(ダンテの形式的ポリフォニーのうちにはないことだが)相互に作用しあいつつ平面上に近接して存立している」世界だ、という。ドストエフスキーが創出したとしてバフチンが描いてみせるのは、このように、時間を同時化しようとする、空間支配(ドミナンタ)の世界という像である。(p122-p123)