読了本

 

 本書は、むしろ江戸文学の研究者・大学院生に読んで欲しいと感じました。

高山さんが書いた論文は、ほとんど読んできたつもりですが、本書が荻生徂徠と徂徠学以後の統治術としての「礼楽」と「修辞」(文彩)の議論を、「接人」(人に接る)としての制度構想がいかになされてきたのか、ということを主題にして、第一部では、荻生徂徠から会沢正志斎に至る「礼楽」論の構想、もう一方では、古文辞学流行の影で、忘れ去れた、統治術としての「修辞」論の問題に焦点を当てて、荻生徂徠から、賀茂真淵本居宣長富士谷御杖への流れる思想史を描写しており、非常に勉強になりました。

特に富士谷御杖の「倒語」論を、表現をいかに制度化するか、という御杖の視点の有効性を考察した議論は興味深いものでした。また、従来の江戸文学研究が、中村幸彦による「人情の解放」という視座からいまだに逃れられていないことにも言及しており、より広く読まれてもいいのではないか、と感じた次第です。