盛田帝子『近世雅文壇の研究』

 

近世雅文壇の研究―光格天皇と賀茂季鷹を中心に

近世雅文壇の研究―光格天皇と賀茂季鷹を中心に

 

 

本書は、江戸中・後期(享保期~天保期)にかけての堂上歌壇と地下歌壇における文芸・学問的交流の位相について明らかにした労作です。

本書の意義は、当該期における堂上歌壇において、国学への関心が高揚していく諸相について、歌会・和歌添削・諸本異同を丹念に読み込みながら、とりわけ今まで看過されてきた、堂上歌人であった富小路貞直と千種有功や、地下歌人の賀茂季鷹の文学史的位置付けを明らかにした点にあります。

今までの堂上歌学をめぐる文学史的研究は、主に江戸前期(後水尾・霊元期)に集中していたこと。また江戸中・後期における堂上歌学をめぐる研究史的な評価としては、「堂上歌学は保守的で形式的な傾向が強まり、形骸化していく」という文学史像が半ば通念化していることもあり、本書のように、この時期における堂上歌壇や地下歌壇の学問的動向を真正面から取り組んだ研究書は皆無でした。これだけでもかなり大きな意義があると思います。

私自身の研究関心に照らし合わせて考えると、賀茂季鷹や有栖川宮家における歌学は、富士谷成章富士谷御杖の思想を考えるときには外せない存在であり、さらに彼らと同時代人であった、小澤蘆庵や香川景樹における思想とも絡み合わせながら、当時における京都文壇をめぐる思想的位相について、自分なりに今後深めていくべき方向性と研究課題を与えてくれたという意味でも、重要な研究書であるという読後感を抱きました。

主に歌論テクストを中心に分析していく研究スタイルしか、私自身は出来ません。その意味でも、本書でなされている文事をめぐる具体的事象を微細なまでに解読していく手法とその作業は、著者の労力や時間が膨大であることが伝わるものだけに、やはり学ぶべきところが多いものでした。

本書に関する誤読や誤解は多々あるかもしれませんが、お正月の「宿題」という意味合いも兼ねまして、この場を借りて本書を紹介する次第です。