アガンベン.G『アウシュビッツの残りのもの』(1)

 

アウシュヴィッツの残りのもの―アルシーヴと証人

アウシュヴィッツの残りのもの―アルシーヴと証人

 
Quel che resta di Auschwitz. L'archivio e il testimone

Quel che resta di Auschwitz. L'archivio e il testimone

 

 

歴史家の観点からは、たとえば大量殺戮の最終局面がどのようであったのか、どのようにして収容者たちをほかでもないかれらの仲間からなる特別労働班(いわゆるゾンターコマンド)がガス室に連れていき、死体を外に引きずり出して洗い、死体から金歯と髪の毛を採取したのち、最後に死体を火葬場の炉のなかに投じたのかを、わたしたちは細部にいたるまで知っている。しかし、わたしたちは、これらのできごとについて記述し、時間軸にそって順に並べることはできても、できごと自体を本当に理解しようとすると、奇妙なことに、それらのできごとは不透明なままなのだ。……ここにあるのが、もっとも内密の体験を他人に伝えようとするときにわたしたちが通常感じる困難でないことは明らかである。ギャップは、証言の構造そのものにある。じっさい、一方では、収容所で起こったことは、生き残って証言する者たちにとってはかけがえのない真実であり、そうであるからには、けっして忘れることのできないものである。つまりは、その真実を構成する現実的諸要素には還元できないのだ。これ以上に真実なものはないというくらいにリアルな真実。事実的諸要素を必然的に逸脱してしまっているほどのリアルさ。これがアウシュヴィッツアポリアである。(p8-p9