児玉識『近世真宗の展開過程』(3)

確かに、近世仏教が中世仏教に比べて思想・機構両面において著しく固定化し、社会に対する影響力を弱め、各宗派ともその独自性を稀薄化したことは論をまたないところであるが、しかし、近世仏教内で各宗を比較した場合、真宗が最も強固に独自の信仰形態を保持し、また民衆生活に最も能動的に機能していたことも事実であって……近世真宗の独自性に関して種々の角度から論じたのも、結局、近世の真宗が、単純に「固定化」・「形骸化」といった概念だけでは説明し尽くせない側面を含んでおり、没個性化の傾向の強かった近世仏教各宗の中では、真宗が個性的・自律的・現実的宗教として民衆社会と直結していたことを明らかにし、それによって、日本の近世民衆も、現在一般に言われているほどには「生きた宗教」から隔絶された生活をしていたのではないことを論証したかったからである。(p275-p276)