児玉識『近世真宗の展開過程』(2)

確かに近世仏教は、いずれも幕府の強力な統制下におかれ、本末制・寺檀制の枠にはめられた存在であったため、中世教団のような自由な発展は見られず、各宗とも没個性的教団と化したことは事実である。しかし、法制上、画一化の傾向が強まっても、庶民における信仰形態は、なお各宗派において様々な特質があったのであり、それを考慮しないで一律に近世仏教の性格規定をすることは好ましい方法とは言えない。……江戸時代を通じてどの宗派の寺院も、農民に対して土地緊縛政策をとる幕藩権力の末端機関的役割を担わされたことは事実である。しかし、だからといって、どの宗派も決して民衆統治のためにのみ機能していたわけではなく、各宗それぞれ独自の布教方法で近世社会への定着をはかっていたのである。そしてそれは、多くは寺檀制度を利用してなされたが、しかし、それだけにとどまらず、寺檀制度を無力化し、それとは無関係に進められる場合もあったことを忘れてはならない。したがって、近世仏教は、常に為政者の意に沿う姿勢をとり続けたとは限らず、宗派によっては、逆に為政者からしばしば弾圧されたものもあったのであるが、このような各宗派の特質を十分に考慮しない限り近世仏教の正確な把握はあり得ないはずである。(p2-p3)