児玉識『近世真宗の展開過程』(1)

戦後の仏教史研究が、この近世編四巻、二千余ページに収められた膨大な史料と、それに基づく辻の近世仏教史観との圧倒的影響下に展開されたからにほかならない。したがって、辻の近世仏教史研究に果した功績ははかり知れないものがあるが、なかでも、教団内学者による護教的論文が跋扈していた時代に、客観的立場を堅持し、一宗一派に偏した史観を論破して、近世仏教全般にみなぎる「形骸化」と「堕落」の傾向を大胆に強調したことの意義は大きく、その後の研究の多くはこの線に沿って進められたのであった。(p1-p2)