佐藤慎一『近代中国の知識人と文明』(4)

それゆえ、天安門事件に先行して行った民主化運動は、単に中国共産党の独裁を批判する政治運動というだけでなく、知識人の復権を求める社会運動でもあった。そして、知識人の復権を正当化するために、「五四精神の復活」というスローガンが用いられた。この場合の「五四」とは、狭義の五四運動のみならず、それに先行する新文化運動であり、近代中国の知識人の歴史において最も華々しい社会的活動を展開した時期であった。「五四精神」として称揚されたのは、陳独秀に典型的に見られたような、社会に対する深い関心と使命感を持ち、自らの学問的識見に基づいて社会問題の解決に積極的に関与する、知識人の態度にほかならない。言い換えれば、知識人が知識人の資格と責任感において社会参加することが、知識人のあるべき行動の在り方として、高く評価されたのである。