ヴェイユ.S『自由と社会的抑圧』(1)

自由と社会的抑圧 (岩波文庫)

自由と社会的抑圧 (岩波文庫)

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第1章 マルクス主義の批判より。

資本主義的抑圧の他の様相を考えるならば、なおいっそうおそるべき困難、より正確には、なおいっそうあからさまな光に照らされた同一の困難があらわれる。労働者を搾取し抑圧するためにブルジョワジーがあやつる力は、われわれの社会的生の基盤じたいに依拠しているので、いかなる政治的・法制的な変容をもってしても殲滅されえない。この力とは、第一義的かつ本質的に、近代的な生産の体制そのもの、すなわち大工業である。……したがって、企業と企業を掌握する人びとにたいする労働者の完全なる従属は、工場の構造にもとづくのであって、私的所有の体制にもとづくのではない。おなじく、「生産に介入する精神的諸力と肉体労働の分離」、もしくは別の公式によれば「肉体労働と知的労働を分かつ堕落的な労働分業」は、専門家を尊重する文化をもつわれわれの文化の基盤にほかならない。科学は占有されている。公教育の組織の不備のせいではなく、科学の本質そのものゆえに。素人は科学の方法ではなく成果にしか近づけない。吸収できないので信頼するしかないというわけだ。「科学的社会主義」もまた少数者の占有物にとどまる。不幸にして「知識人」もまた、労働運動の内部にあって、ブルジョワ社会におけると同様の特権を有する。(p15-p16)