中井久夫『「思春期を考える」ことについて』(3)

「少し長いあとがき」より。

私の拠って立つ灯台は、それまで九年間続けた、主に統合失調症の臨床であったことは以後も変わらない。私の基本的な疑問は、統合失調症がそれほどにも人を悩ますのは疑いないけれども、では、どうして普通の身体に備わっている守りの仕組みが働かないのだろうということである。睡眠が妨げられるのは患者の誰もが経験している。睡眠は、夜中に現われて昼間に乱したものを片づける「七人のこびと」である。だから、何よりもまず睡眠が問題である。眠らないと頭の中が「ちらかる」。統合失調症の失調のおおもとである。次にそれと関連して夢である。悩みがいろいろの形で夢に出ることは誰でも知っているが、患者が悩む幻覚や妄想にかぎって夢に出てこないのがふしぎである。そもそも夢には昼間の思考で消化できなかったものを消化してくれる役目がある。夢の消化の働きでも処理できなかった「しがみ滓」が目覚めた直後の夢である。だから、夢が「わけがわからなくて当然」である。(p345-p346)