バトラー.J『ジェンダー・トラブル』(5)

いわばつねにジェンダー化されていない人間など、これまで存在していただろうか。ジェンダーのしるしは、身体を人間の身体として「資格づける」もののようである。赤ん坊が人間化される瞬間は、「これ(it)は男の子か女の子か」という問いに答えられるときである。どちらのジェンダーにも合致しない身体形態は、人間のそとにあるもの――非人間的で、おぞましきもの(アブジェクト)の領域を構築するもの――であり、それと区別して人間が構築される。もしもジェンダーがつねにそこにあって、人間の資格をもつものをまえもって制限しているなら、あたかもジェンダーが補遺とか、文化によって付け加えられる補足であるかのように、ジェンダーになっていく人間について語ることなど、どうしてできようか。(p199-p200)