バトラー.J『ジェンダー・トラブル』(1)

ジェンダー・トラブル―フェミニズムとアイデンティティの攪乱

ジェンダー・トラブル―フェミニズムとアイデンティティの攪乱

Gender Trouble: Feminism and the Subversion of Identity (Routledge Classics)

Gender Trouble: Feminism and the Subversion of Identity (Routledge Classics)

第1章「〈セックス/ジェンダー/欲望〉の主体」より。

「主体」の問題は、政治にとって、とくにフェミニズムの政治にとっては、きわめて重要なものである。なぜなら法的主体というのは、ひとたび政治の法構造が確立されれば、そのとたんに「見え」なくなる排除の実践によって生み出されるものであるからだ。換言すれば、主体を政治的に構築するときの目標は、正当化と排除であり、またこの政治操作は、その政治操作の基盤が法構造にあるとみなす政治分析によって、結果的に隠蔽され、自然なものとされてしまうからである。法の権力は、単に表象/代表しているにすぎないと言っているものを、じつは不可避的に「生産している」のである。したがって政治は、権力のこの二重の機能――法制機能と産出機能――に注意を払わなければならない。実際、法は「法のまえに存在する主体」という概念を生みだし、そののちそれを隠蔽するが、その目的は、言説による形成物であるにもかかわらず、それがすべての基盤をなすきわめて自然な前提として、そして次には、法の規制的な支配を正当化するものとして、引きあいにだすためである。したがって女が言語や政治においてどうすればもっと十全に表象されるかを探究するだけでは、じゅうぶんではない。フェミニズム批評は同時に、フェミニズムの主体である「女」というカテゴリーが、解放を模索するまさにその権力構造によってどのように生産され、また制約されているかを理解しなければならない。(p21)