桑野隆『未完のポリフォニー』(5)

「メイエルホリドを信奉する」ブリアンの勧めでまとめる気になったという、ボガトゥイリョフのこの著作が、当時ソ連において博士論文と認められたのは、いまからおもえばまことに奇妙であるが、なにかの「手違い」の可能性が多分にある。……この博士号授与が「手違い」であった証拠に、ボガトゥイリョフのこの著作は、爾来二〇年近く、正当に評価されることはけっしてなかった。ボガトゥイリョフの一九四〇年までの著作が改めて脚光を浴びるようになったのは、メイエルホリドが復権し、さらにフォルマリズムや記号論の遺産が見直されはじめた一九六〇年前後のことである。(p219-p220)