中井久夫『治療文化論』(7)

病いの有徴性は、病いが「宣告される病い」から「診断し治療される病い」に移行するにつれて消失に向かう。歯痛は耐え難いものの一つであり、歯科治療は大きな救済をもたらすが、今日のムシ歯は一般に、何の有徴性をも個体に与えない。逆に、有徴性を付与される「宣告される病」は精神病に限らない。かつてのハンセン氏病、あるいは結核はいちじるしい有徴性を帯びていた。(p120-p121)