中井久夫『治療文化論』(5)

近世の大和平野は、民話、民謡、伝説、祝祭に乏しい。この地に旅した者は土産にも困り、地方独特の料理すらないことに落胆する。この場合古き神々は、浄土真宗地帯のごとく力ずくで追放されたのではなかろう。ここは、神々が見棄てた地、いわばエリオットの「荒地」である。(p54)