キルケゴール.S『不安の概念』(2)

精神は自己自身から脱け出ることはできない、しかしまた精神は、それが自己自身を自己自身の外にもっている限りにおいて、自己自身を捉えることもできないのである。人間は植物の世界に沈降することもできない、なぜなら彼は不安を愛しているのだから。しかしもともと彼は不安を愛することもできない、なぜなら彼は不安から逃げ去るのだから。いまや無垢はその頂点に達する。それは無知である、しかし動物的な野蛮性ではなしに、精神によって規定されている無知である、ところでまさにその故にそれは不安である、なぜならそれは無についての無知なのだから。ここには善と悪とに関するいかなる知識もない。むしろ知識の全現実性が不安のなかで自己を無知の巨大な無として投影するのである。(p72)