テツオ・ナジタ『Doing思想史』(1)

Doing思想史

Doing思想史

昌益の自然協同体、あるいは「自然の世」は、よくユートピア的だといわれます。しかし私の徳川思想史の読みからすると、講や協同体的社会原理にもとづいておこなわれたさまざまな日常的実践や広範な言説と一致したヴィジョンだったと言えます。これらの協同体的社会空間は、相互扶助を目的とした契約講にはじまり、農村再建運動、商業活動を中心にした講にいたるまで幅広い領域に存在し、また法律や政治という公の秩序の外で生成発展したのです。昌益の自然協同体は、政治権力や公方とは関係なく、庶民の日常の実践的な世界に根をはやして進展した社会史の一部とみなすことができるでしょう。(pp6-pp7)