2011-01-01から1ヶ月間の記事一覧

 川崎修『アレント』(1)

現代思想の冒険者たちSelect アレント 公共性の復権作者: 川崎修出版社/メーカー: 講談社発売日: 2005/04/13メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 1人 クリック: 18回この商品を含むブログ (23件) を見る アレントにとって十九世紀的な秩序とは、具体的に…

 川崎修『アレント』(2)

アレントにとって、全体主義とは、人種主義やソヴィエト共産主義といった教義の内容の問題なのではなく、思考様式や、運動、政治組織の様式の問題なのである。したがって、「アメリカ」であろうと「民主主義」であろうと、全体主義イデオロギーとして利用す…

 大宮勘一郎『ベンヤミンの通行路』(8)

書物とその収蔵所たる図書館において、パリの「Fortの時間」と彼の住む「Fortの時間」とが出会うのは、自然なことであっただろう。実現しなかった事柄、顧みれなくなってしまった理念や理想が、空想や、さらには妄想との区別さえ失って、彼らに「定められた…

 大宮勘一郎『ベンヤミンの通行路』(7)

回想者は死を忘れない。しかし彼は死に抗って回想し、書くのではない。死は彼に相対し、彼と向かいあっている。それは常に彼の仕事の本質に属することである。というのは死とは、彼が書き続けるテクストの中に存在するからである。もちろん彼は、死そのもの…

 大宮勘一郎『ベンヤミンの通行路』(6)

制作と廃物といえば、ロマン主義における廃墟の美学が念頭に浮かびそうである。これは感傷へと形を変えて今でも残存する美意識かもしれないが、これを例えばWTC跡に当てはまるのは不謹慎というより先に、時代錯誤(一掃されてしまったが)も此方のうずたか…

 大宮勘一郎『ベンヤミンの通行路』(3)

手稿には何が残されるのか。試し書き、取捨選択以前の様々な素材のメモや抜粋、書き損じ、付言、削除、落書き、乱れ中断され、あるいは執拗に繰り返される言葉やその断片、逆に決して書かれぬ言葉、滲みや擦れ、つまりは冗長や不足さらには無意味――入り乱れ…

 大宮勘一郎『ベンヤミンの通行路』(2)

「翻訳」において肝心なのは、それらの形象の真相を言葉によって透かし出すことであり、それらに「別の言葉」を充てることである。これが試みられたところに「翻訳」はようやく始まる。(p60)

 大宮勘一郎『ベンヤミンの通行路』(1)

ベンヤミンの通行路作者: 大宮勘一郎出版社/メーカー: 未来社発売日: 2007/12メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 13回この商品を含むブログ (9件) を見る 充実した体験をもたらすのではなくむしろ穴だらけの旅行、穴ばかりをもたらす旅行、それを敢行する…

 大宮勘一郎『ベンヤミンの通行路』(5)

つまりこの「岩」は、人為による建造物たるたる都市が、本来ならば空や海、さらには陸の自然的地形と区別されるはずの、その界面の「形状」として、要するに「都市のかたち」として、見出だされている。この地において建てるとは、建-立であるよりもむしろ穿…

 大宮勘一郎『ベンヤミンの通行路』(4)

ベンヤミンが旅行者である、ということは、伝記的事実として彼が繋ぐ旅行に出た、というわけだけではない、書くことの一大条件をなしていた、ということである。そして旅行は、その記述自体の律動を生み出すものとしてテクストの中に入り込んでいる。(p6)

 『新しい貧困』(4)

やがて、市場競争に翻弄される気まぐれな雇用条件が、市民の将来の不確実性と、彼らを苦しめる社会的立場や自尊心の不安定さの主要な源泉となり、現在もその状態が続いている。社会国家が、雇用を安定させ、将来をより確実なものとすることで、その成員の保…

 『新しい貧困』(3)

近代的な生活のあり方は、持続的で止むことのない世界の更新から成り立っている。ものごとを異なったものに、おそらく、それまで以上に、そして現在よりもよくしようとする衝動、そうしたものを促す衝動にそれ以上の力を加える実践を伴う衝動が、通常、「近…

 『新しい貧困』(2)

一般に、厚生、そしてとくに福祉国家という発想は、労働倫理とは曖昧な関係にある。事実、福祉という発想は、次のような二つの和解しがたく対立する形で労働倫理の中核的発想と関連があり、それは長年にわたって議論の的となっており、現在のところ、すべて…

 バウマン.Z『新しい貧困』(1)

新しい貧困 労働消費主義ニュープア作者: ジグムント・バウマン,伊藤茂出版社/メーカー: 青土社発売日: 2008/07/24メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 48回この商品を含むブログ (13件) を見る 私たちはみな「消費者」であることが何を意味するかを、多か…

 ガタリ.F『分裂分析的地図作成法』(4)

クーンのパラダイムに欠けているのは、それが門にしか存在せず、世界の付置によって結びつけられていないことである。問題も、ほかの生物と同じ資格で生きている。ただし生物とは異なり、同一の座標のなかを移動するだけではない。……第一世代の《欲望する機…

 ガタリ.F『分裂分析的地図作成法』(3)

エントロピー主義の病は末期において――ここで私は構造主義とシステム論のことを考えているのだが――下部構造コンプレックスを自発的に取り除くことによって、小康状態に向かうと思われるかもしれない……しかし、残念ながらそうではない。還元主義の焦点が、最…

 ガタリ.F『分裂分析的地図作成法』(2)

いまやわれわれは、ジャン=フランソワ・リオタールがポストモダンの条件と呼ぶものの中心にはいない。私は、リオタールとは異なり、ポストモダンの条件とはあらゆる服従のパラダイム、現行の状態とのあらゆる妥協のパラダイムであると考えている。リオタール…

 ガタリ.F『分裂分析的地図作成法』(1)

分裂分析的地図作成法作者: フェリックスガタリ,F´elix Guattari,宇波彰,吉沢順出版社/メーカー: 紀伊國屋書店発売日: 1998/02メディア: 単行本 クリック: 20回この商品を含むブログ (12件) を見る いまここで明確に述べるのはたいへん難しいのだが、主体的…

 ガタリ.F『分裂分析的地図作成法』(6)

フロイトが《一次過程》、あるいは不安定であると同時に瞬間的な存在の残像の《充実した瞬間》という名で記したものを正しく解釈したいのならば、この理論的なモンタージュが必要であると思われる。この一次過程や充実した瞬間とは、幼年期、分裂病のカタス…

 ガタリ.F『分裂分析的地図作成法』(5)

ふるいの役目は、共立性の獲得のもろもろのシークェンスにある程度の安定性を与えることであり、多数性の役目は、脱交叉が停滞したときに、考察しているアジャンスマンを重複雑性の準拠によって《再充電する》ことである。脱交叉の体制のもとにとどまる限り…

 バフチン.M『バフチン言語論入門』(5)

人間文化で音声言語が登場した段階は魔術的段階とよばれる。ここで、あらゆる音声言語のそもそもの基礎である基本的言語要素が仕立てられていった。これはまだ現代的な語義での言葉ではないし、音による指し示しでもなく、何らかの現象・現象群の記号でもな…

 バフチン.M『バフチン言語論入門』(4)

言語の本質や、社会生活における言語の位置と使途を理解せずして、芸術のことばの文体論と呼ぶもの、つまり、文学作品の構成技術そのもの正しくアプローチすることはけっしてできない。浅薄な素人好事家ではなく、おのが芸術の名匠とならんと欲するなら、作…

 バフチン.M『バフチン言語論入門』(3)

他者の異言語の言葉に向かっての言語学や言語哲学の定位は、言語学や哲学の側からすれば偶然でもなければ根拠のないことでもない。そうではなく、この定位は、他者の言葉が歴史上のあらゆる文化を創造してゆく過程において演じた巨大な歴史的役割の表現なの…

 バフチン.M『バフチン言語論入門』(2)

詩的作品は、事物や身近な環境の出来事を自明のものとみなして、それらに立脚するようなことはできず、それらにたいするひとつの暗示すら発話の言語的部分に導入したりはしない。この点では、もちろん、文学における言葉にはるかに大きな要求が課せられてい…

 バフチン.M『バフチン言語論入門』(1)

バフチン言語論入門作者: ミハイルバフチン,Mikhail Mikhailovich Bakhtin,桑野隆,小林潔出版社/メーカー: せりか書房発売日: 2002/08メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 12回この商品を含むブログ (1件) を見る 「形式的方法」にとって詩的作品とは、形式…

 桑野隆『未完のポリフォニー』(7)

ヤーコブソンをはじめとするモスクワ言語学サークルの者たちは、おそらくは言語学の拡張あるいは言語学的詩学の確立に重点をおいていたためと推されるが、前記のように、「異化」を言語のレベルに限定する傾向にあったものの、シクロフスキイのこういった「…

 桑野隆『未完のポリフォニー』(6)

ボガトゥイリョフ(バフチン)の記号論が、すぐれて動的であり、一見不動に見える伝統のなかに即興性を剔出してゆくのも、畢竟、それは、その記号論が「広場」の思想のなかで生を受けたがゆえにほかならない。あるいはまたムカジョフスキイの著作がすでに示す…

 桑野隆『未完のポリフォニー』(5)

「メイエルホリドを信奉する」ブリアンの勧めでまとめる気になったという、ボガトゥイリョフのこの著作が、当時ソ連において博士論文と認められたのは、いまからおもえばまことに奇妙であるが、なにかの「手違い」の可能性が多分にある。……この博士号授与が…

 桑野隆『未完のポリフォニー』(2)

今日、他者にたいする無関心ぶり、冷淡さには深刻なものがあるが、バフチンにいわしむれば、元来、人間の生も死も、ひとりでは意味づけようがない。「有意味な孤独」というのは形容矛盾である。人間のいかなる出来事にも〈他者〉が不可欠である。それが必要…

 桑野隆『未完のポリフォニー』(1)

未完のポリフォニー―バフチンとロシア・アヴァンギャルド (ポイエーシス叢書)作者: 桑野隆出版社/メーカー: 未来社発売日: 1990/08メディア: ハードカバーこの商品を含むブログ (1件) を見る バフチンのいう〈対話〉は、円満な「妥結」を図ったり、最終的な…