アガンベン.G『事物のしるし』(6)

第二章「しるしの理論」。

『ムネモシュネ』は、芸術家――あるいは学者――が、もし西洋の歴史的記憶の伝統のなかで問題にされてきた危険な作用を把握し実現したいのであれば、認識し操作することを学ばなければならない、そうしたしるしの図像集なのである。そのためにヴァールブルクは、実のところ科学用語よりも呪術用語に近い擬似科学的な用語でもって、〈情念定型〉や「分離された力動図」(abgeschnürte Dynamo-gramme)――芸術家(あるいは学者)と出会うそのたびごとに効力を取り戻すところの――に言及できるのである。……ヴァールブルクが捉えようとした〈情念定型〉、「記憶痕跡」(エングラム)、〈イメージ〉(Bilder)とは、記号でも象徴でもない。しるしである。そして、ヴァールブルクが打ち立てることのできなかった「名のない学」とは、呪術を呪術それ自体の道具立てによって克服し〈止揚〉(Aufhebung)するがごときものである。その意味では、しるしの考古学なのである。(p89)