テッサ・モーリス・スズキ『北朝鮮へのエクソダス』(2)

歴史の片隅に置き去りにされ、忘れられていたこの問題を調べ始めて、わたしは今さらながら驚いた――日本に住む友人のなかに、帰国船で北朝鮮に移住した知人や親戚をもつ人がなんとたくさんいることだろう。帰国によって変わったのは九万三千三百四十人の″帰国者”の人生だけではなかった。この人たちが日本に残していった何十万という親縁者や友人たちの人生もまた変えられたのだ。こうした無数の人たちの物語は大事だ。この人たちが――植民地支配とそこからの解放、冷戦、といった重大な出来事に人生をからめとられた人たちのひとりひとりが、とても大事だからだ。しかし、日本でも長いあいだなおざりにされ、外の世界ではまったくといっていいほど知られていないこの物語は、こうしたひとりひとりの人間の運命を超えた規模をもつ物語である。(p26-p27)