隠岐さや香『科学アカデミーと「有用な科学」』(4)

第6章 1780年代における「エコノミー」研究主題群の展開より。

気球の問題からほどなくして、科学アカデミーは動物磁気説(magn〓tisme animal)と呼ばれていた理論の調査を通じて、擬似科学の問題とも関わることになる。それは今日でいう催眠術と電気、磁石理論に神秘主義的な自然崇拝の教説をたくみに採り入れたものであり、オーストリア出身のフランツ・アントン・メスマーにより唱えられたためメスメリスム(mesm〓risme)とも呼ばれた。……一七七〇〜八〇年代、魔法のように飛ぶ気球や自動機械が人々を魅了すればするほど、その驚きは時に中世以来のオカルティズムや錬金術の伝統への関心と渾然一体となり、不可視なものや神秘的なものに対する想像力を際限なくかきたてていた。……だが、フランスに流入したメスメリスムは単なる呪術まがいの医療活動ではなく、当時の反体制的言説とも結びついていた。フランス語をあまり得意としないメスマー本人に代わり、メスメリスムの普及活動に努めたニコラ・ベルガスやブリソー・ド・ヴァルヴィルといった論者たちが、政治的色彩を帯びたものにメスメリスムを変えていったのである。(p234-p235)