読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

 中井久夫『「つながり」の精神病理』

精神医学

「つながり」の精神病理 中井久夫コレクション2 (ちくま学芸文庫)

「つながり」の精神病理 中井久夫コレクション2 (ちくま学芸文庫)

本書は精神医学の専門書ではないが、中井久夫の炯眼が随所に散りばめれている。

本書の中心テーマは「家族」である。複雑な位相になるにつれ、「家族」への研究はツリー・モデルではなく、リゾーム・モデルとして分析しないとたちゆかないと言う。

家族においては、複雑な相互作用がいとなまれ、それも裏表、表面と中層と底層、意識と無意識にわたり、またかならずしも整合的でない相互作用であり、そしていわゆるコミュニケーションがその一部にすぎないような広大な領域の相互作用である。また家族は変動して留まることがない。年をとり、病み、誕生と死と結婚によって、また生計の変動、社会的位置の相対的変化、社会自体の変動によって、すべての家族は影響を受け、これに反応し、変化し、時には崩壊する。(p100-p101)

典型的な作品が、「サザエさん」だろう。登場人物が「年をとらない」という無限ループこそ、「サザエさん」を作品として成り立たせている。もし思春期に移行するカツオやワカメを描写すれば、それはもはや「サザエさん」ではないだろう。

そういえば、「サザエさん」の家族構成は現実にめったにないような構成であって、あれは、うまく、転換期的な年齢の構成人員がいないようになっている。そのためにか、かなり不自然な家族構成なのだが、読者は、あまり気づかないようだ。あの家族構成には不安をそそるものがないからである。……登場人物の年齢を十年上げてみると「サザエさん」の世界は成り立たないのである。(p120-p121)

誰でも思う「のび太やカツオはなぜ年をとらないのか」という素朴な疑問は、ある意味で「家族」の永遠化(1960・70年代の)の現代的寓話として見ることができる。のび太が年をとらないのも、のび太が児童期にこれから直面する様々な競争を強いなければならない時期の手前の年齢であるから、と本書は述べる。

このような洞察は、長年にわたり、「家族」という全体的布置の一部として、自らの状況に身に置きながら、臨床に携わってきた中井久夫のスタンスだからこそ、言えることかもしれないが、他のエッセイも珠玉のものがあるので、是非一読を勧めたい。