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 バトラー.J『ジェンダー・トラブル』(2)

しかしながら、主体概念を支える基盤主義の虚構のほかにも、女たちという語が共通のアイデンティティを意味すると仮定したときにフェミニズムが遭遇する政治問題が、もうひとつある。女たちという語は、それが記述し代表しているつもりの人々の合意を得ることができる安定したシニフィアンなどではなく、たとえそれが「女たち」と複数形で書かれたとしても、問題の多い用語であり、争いの場、不安の原因なのである。……もしもひとが女で「ある」としても、それがそのひとのすべてでないことは確かである。その語がすべてを包摂することができないのは、ジェンダー化されるまえの「ひと」が、そのジェンダーを成り立たせている装具一式を超えたものであるからではない。そうではなくて、異なった歴史的文脈を貫いてジェンダーが矛盾なく構築されているわけではないからであり、またジェンダーは、人種、階級、民族、性、地域にまつわる言説によって構築されているアイデンティティの様態と、複雑に絡み合っているからである。その結果、ジェンダーをつねに生みだし保持している政治的および文化的な交錯から、「ジェンダー」だけを分離することは不可能なのである。(p22)