大宮勘一郎『ベンヤミンの通行路』(7)

回想者は死を忘れない。しかし彼は死に抗って回想し、書くのではない。死は彼に相対し、彼と向かいあっている。それは常に彼の仕事の本質に属することである。というのは死とは、彼が書き続けるテクストの中に存在するからである。もちろん彼は、死そのものを書くわけでもない。「新しい現実」としての死とは、書かれたテクストが示す律動の変調や不意の中断において仄見えるものだからである。(p218)