桑野隆『未完のポリフォニー』(7)

ヤーコブソンをはじめとするモスクワ言語学サークルの者たちは、おそらくは言語学の拡張あるいは言語学詩学の確立に重点をおいていたためと推されるが、前記のように、「異化」を言語のレベルに限定する傾向にあったものの、シクロフスキイのこういった「異化」―― すなわち、世界の異化――は、ヤーコブソンを含むフォルマリストたち全員にほぼ共通する了解事項であったとみていいであろう。(p245)