桑野隆『未完のポリフォニー』(4)

このような試みを芸術の周縁とみるか、芸術概念の変革とみるかは、もはや判断する側の芸術観によることになろう。……しかしその反面、ロシアのアヴァンギャルドが同時代の他の国々のアヴァンギャルドに比して今日ひときわ注目をあびる価値があるとすれば、それは、ひとつには、この点、すなわち受け手の問題をめぐる前衛芸術家たちの真摯な探求、熾烈な格闘があったからであろう。芸術上の対決のみでなく、受け手にも眼をそそいだ前衛芸術家こそ、もっとも困難なアヴァンギャルドであったはずである。(p115)