桑野隆『未完のポリフォニー』(2)

今日、他者にたいする無関心ぶり、冷淡さには深刻なものがあるが、バフチンにいわしむれば、元来、人間の生も死も、ひとりでは意味づけようがない。「有意味な孤独」というのは形容矛盾である。人間のいかなる出来事にも〈他者〉が不可欠である。それが必要でないというひとには、なにか不自然というか無理、ごまかし、誤解があるということになる。当然のことながら、バフチンはモノローグ原理が貫徹する資本主義に批判的であった。資本主義は「出口なき孤独」という幻想をでっちあげてしまう、というわけである。人間はひとりで生きていける、あるいはひとりで生きていくしかないという錯覚を起こさせるのである。(p16)