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 中井久夫『徴候・記憶・外傷』(6)

私の使っている意味が、少し独特であるかもしれない可能性がある。……医学の意味における徴候、すなわち、ある疾患の存在を推定させるサインをも含むであろうけれど、もっと曖昧なものである。すなわち、何かを予告しているようでありながら、それが何であるかがまったく伏せられていてもよいのである。むしろ、そういう意味の「徴候」が、主な意味である。……signを「徴候」「記号」のいずれに訳するかに困ったことがある。「記号」とは、「記号するもの」と「記号されるもの」とが一組になったものであって、原則的には両者の間に明確な対応関係がある。これに対して「徴候」は、何か全貌がわからないが無視しえない重大な何かを暗示する。ある時には、現前世界自体がほとんど徴候で埋めつくされ、あるいは世界自体が徴候化する。(p25- p26)