キルケゴール.S『死に至る病』(4)

かくて彼は絶望する、というのは、奇妙な顛倒と完全な自己欺瞞によって、彼はそれを絶望と名づけるのである。けれども絶望とは永遠的なるものを喪失することである、ーー彼はこの喪失について語ることをしない、いなこの喪失のことなど夢想だにしないのである。地上的なるものを失うことは絶望ではない、ーーところが彼の語るのはそのことについてであり、そして彼はそれを絶望と名づけるのである。彼の語ることは或る意味では真である、ただし彼がそれを理解しているような仕方で真なのではない。彼の立場は顛倒している、そこで彼の語ることもまた顛倒さして理解されなければならない。彼はそこにおり、何等の絶望でもないようなものを指さして、自分は絶望していると語っている、ーーところが実は全くその通りなので絶望が彼の知らぬまに彼の背後で起っているのである。(p83-p84)