スピノザ.B.D『スピノザ往復書簡集』(3)

「書簡十七 スピノザからピーテル・バリングへ」より。

お手紙にあった前兆について申しましょう。あなたはお子さんがその亡くなる少し前に病床で発したと同じような泣き声を、お子さんがまだ健康で元気でおられた時にも聞いたと言われます。私の考えではそれは本当の泣き声ではなく、単にあなたの表象力の産物ではなかったかと思います。その証拠に、あなたが起き上ってそれを聞き定めようと身がまえた時、それは前ほどはっきりは聞えず、その後で眠りに入ったらはっきり聞えたというではありませんか。確かにこのことは、その泣き声があなたの単なる表象であったことを物語っています。表象力は、あなたが立ち上って耳を一定の場所に向けた時よりも、それが何の束縛も受けずに自由である時の方が、一定の泣き声をはっきり生き生きと表象し得たのです。(p86-p87)