『李箱作品集成』(1)

李箱作品集成

李箱作品集成

崔真碩「〈近代の鳥瞰図〉としての李箱」より。

元来、日本や朝鮮などの後進の近代において、自然主義やモダニズムなどの近代文学は、ともに過去や伝統の否定を通じた文学的投企を意味することになる。しかし、どこよりも急速な近代化を遂げた朝鮮近代文学の混沌とした環境のなかで、李箱文学は、足場が不安定などころか、拠って立つべき足場がほとんどといってない「真暗ら」な状態にあったのだ。次の李箱の日本語による文章は、誰にも理解されないなかでモダニズム文学を追求し続ける李箱の、寂寞とした孤独感を詠っているように思われる。李箱とは、まさに孤高のモダニストであったのだ。「おい 誰か 灯をつけて呉よ/手さぐりで ようやく此処まで来たんだ/こんなに真暗じや/もう駄目だ 恐ろしくつて足が出ないや/おい 誰か灯をつけて呉よ」『朝鮮と建築』巻頭言より、(323頁) (p346)