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 李良枝『刻』(6)

李良枝

始業のチャイムが鳴り始めた。


教室に戻ると、担任の教師がすぐに入って来た。出席の点呼が終わると、全員が起立する。黒板の上のスピーカーから「愛国歌」が流れ始める。全員、胸に手を当て、歌を口ずさむ。


毎朝、こうして「愛国歌」を聴いているのに、歌詞を覚えられないのは何故だろう。うつむき、かろうじて口の形を合わせてはいる。だが、一人で歌ってみろ、と言われたら教室から逃げ出すしかない。


初めの二小節だけが感動的だった。


音が電流のように身体を貫いていき、悲壮な感情がこみあげてくる。目が潤む。立っている膝や、胸に当てた手を震えだす。


しかし、そのうちに音は、崩れだす。


耳許で、ぼろぼろになって散っていく。(p55)