バシュラール.G『夢みる権利』(1)

夢みる権利 (ちくま学芸文庫)

夢みる権利 (ちくま学芸文庫)

潜在的であるだけに、それらの仮面はわれわれに隠蔽の生成そのものを明かしてくれる。それらは精神病医に、いわば隠蔽の真剣さ、人為の自然さの度合を測定することを許してくれるのだ。仮面の潜在性の階梯に沿って、人は、隠蔽を欲している存在の意識がどこまでその気になっているかを辿ることができるであろう。もう一度言えば、実際の仮面は、隠蔽のあっけない成功を通じて、隠蔽というものの現象学的な諸根源を喪失してしまう。実際の仮面をかぶった存在は、隠蔽の過程に真にかかわってはいない。実際に仮面をつけ完全に仮装した存在の現象学とは、かくて彼自身の存在の純然たる否定である。この否定にあって彼は眠り込むことも出来、仮面を望んだという意識そのものさえ失ってしまいかねない。すべてが一挙に仕上がってしまう。仮面をつけるにせよ、脱ぐにせよ、純然たる論理的二者択一の問題であって、実存的価値は何ひとつないのである。(p269)